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大阪地方裁判所 昭和40年(ワ)2034号 判決 1966年12月15日

原告 葵産業株式会社

右代表者代表取締役 山下修三

右訴訟代理人弁護士 小倉慶治

同 東朝彦

被告 成和倉庫株式会社

右代表者代表取締役 武村米蔵

右訴訟代理人弁護士 熊谷尚之

右訴訟復代理人弁護士 高島照夫

主文

被告は原告に対し金九一三万三四五四円およびこれに対する昭和四〇年五月二三日から右支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は二五〇万円の担保を供するときは仮りにこれを執行することができる。

事実

第一当事者の申立

一  原告

主文第一、二項同旨の判決並に仮執行の宣言

二  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(原告の請求原因)

一、原告は鋼材等の販売業者であるが、訴外くろがね工業株式会社(以下くろがね工業という)に対し昭和三九年一一月一〇日から同四〇年一月一九日まで毎月二〇日〆切同月末支払の定で鋼材等を販売してきたもので、現に九一三万三四五四円の売掛代金債権を有するものである。

二、被告は昭和三九年一二月八日原告に対し右くろがね工業が原告との前記取引に基いて負担する現在および将来の一切の債務について連帯保証した。

三、よって被告は原告に対し前記代金およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日たる昭和四〇年五月二三日から右支払済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

(被告の答弁)

一、不知

二、否認

三、争う

(被告の仮定抗弁)

一、被告の保証は訴外片山吉博が被告会社の代表取締役としてなしたものであるところ、当時同人は主たる債務者たる訴外くろがね工業の代表取締役の地位にあったものである。

したがって片山吉博が被告会社代表取締役としてくろがね工業の利益の為に連帯保証契約を締結したものというべく、右行為は商法第二六五条により取締役会社間の取引として取締役会の承認を得なければその効力を有しないわけであるが、被告会社は取締役会によりこれを承認した事実はないから本件保証は無効である。

(抗弁に対する原告の主張)

本件保証契約は原告および被告間の契約であって、被告および訴外くろがね工業又は片山吉博間の契約ではないから商法第二六五条に該当しない。

商法第二六五条に規定する取締役会の承認を要する取引とは取締役が自己又は第三者のために会社となす取引であって取引の当事者の一方が取締役またはその代理代表している人で、他の当事者が会社であることを成立要件とするものであり、当事者が右と異るときは、同法条にいう取引に該当しない。

然るに本件保証契約は原、被告間の契約であり、商法第二六五条の規定する取引と当事者を異にすること明らかであり同条の取引に該当しないものといわなければならない。

第三証拠方法≪省略≫

理由

≪証拠省略≫によると原告主張の第一項の事実が認められる。右認定を動かす証拠はない。

≪証拠省略≫によると原告主張の第二項の事実が認められる。

してみれば被告は訴外くろがね工業株式会社の連帯保証人として右訴外会社の原告に対する買掛代金債務九一三万三四五四円を支払う義務があるものというべきである。

次に被告の抗弁について考察する。

訴外片山吉博が被告会社代表取締役として訴外くろがね工業の原告に対する債務につき連帯保証した昭和三九年一二月八日当時くろがね工業の代表取締役の地位にあったことについては原告は明にこれを争わないのでこれを自白したものとみなす。

そして≪証拠省略≫を合せ考えると、被告会社がくろがね工業の原告に対する債務について保証したのは当時くろがね工業の代表取締役として原告と前示取引をなした訴外松野清が同じく右くろがね工業の代表取締役であり、且つ被告代表取締役でもあった訴外片山吉博に被告会社が保証をなすことを委託したので、同人においてこれを受諾したことによるもので、これにつき被告会社の取締役会の承認のなかったことおよび原告は当時片山吉博がくろがね工業の代表取締役であったことを知らなかったことが認められる。思うに商法第二六五条の適用範囲やその効力については学説判例は多岐に分れているが、当裁判所は基本的には同条は命令的規定であって効力的規定ではないと解するものである(判例民事法昭和七年度一四〇号事件評釈並に昭和34・9・16大阪高判、下級民集一〇巻九号一九四八頁参照)。およそ取締役は会社に対し忠実義務を有し、会社に損害を与えるような行為はなすべきでないが、取締役が自己又は第三者の為に会社と取引をなす場合は会社に損害を与える虞が大であるのでこのような取引については特に取締役会の監督に服せしめたのである。したがって取締役が取締役会の承認を受けないで自己又は第三者の為に取引をなし、これがために会社に損害を与えた場合は会社は当該取締役に対し損害賠償の責任を追求し得るのである。近時系列会社、親子会社、姉妹会社と称せられる会社が簇生し、互に取締役を交換し又は兼務し、それらの会社の間では互に取引上便益を受けている関係にある。現に≪証拠省略≫によると、被告会社の現在の代表取締役武村米蔵は昭和三九年一一月一六日から同四〇年一月五日まで片山吉博と共にくろがね工業の代表取締役に就任していたのであり、訴外の間崎鴻も一時両者の取締役をかねていたことが認められる。してみれば訴外くろがね工業と被告会社とは一種の姉妹会社ともいえる関係にあったものである。被告会社がくろがね工業の債務につき連帯保証することになったのも、右に見たような関係にあったからであろうが、さりとて取締役会の承認を受けないでなした保証を無効と解すると、その相手方たる原告において被告会社の代表取締役片山吉博がくろがね工業の取締役でないかを調査し且つ取締役であれば被告会社の取締役会の承認を受けたかを調査した後でなければ保証を受けられないこととなり、相手方に対し過重な負担をかけることになる。そのようにみてくると取締役会の承認を受けないでなした代表取締役の行為を無効と解するのは行過ぎであり、かかる代表取締役の責任を追求するかどうかの決定は当該会社の自治に委せば足ることであると思う。これ当裁判所が商法第二六五条違反行為の無効説に組みしない所以である。

以上説示のとおり被告の本件連帯保証は無効でないから、被告は原告に対し前示認定の訴外くろがね工業の買掛代金九一三万三四五四円およびこれに対する訴状送達の日の翌日たること記録上明らかな昭和四〇年五月二三日から右支払済まで商事法定利率年六分の割合による損害金を支払う義務がある。

よって原告の本訴請求は正当であるからこれを認容することとし、民事訴訟法第八九条、第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 庄田秀麿)

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